「恋の罪」


園子温恋の罪」、銀座シネパトスにて。▲水野美紀、光量不足もあって肌が疲れて見えるカットが多い。喫煙者の刑事の役だが、まさに喫煙者の肌に見える。この映画の主要な女たちのなかで、最も美しいはずの女優の肌がそんな風に映し出される。▲冨樫真、異形の商売女、このメイクは見事である。映画におけるこのメイクは「変装」であるが、あがれずにずるずると商売を続けた果ての女にありがちな異形のメイク。▲神楽坂恵、この映画は彼女の成長譚である。小説家の貞淑な妻がスーパーの食品売場の試食サービスのバイトを始めたのをきっかけに、終いには地方都市の立ちんぼにいたる。そんな成長譚である。そうした変容が成長かどうかはともかく。▲内田慈、ヌードクラブの女。神楽坂恵の「堕落」あるいは成長の一歩目を後押しする女である。求人エージェント会社にいそうな、あるいはネット系の代理店にいそうな女である。生理的に嫌いである。ゆえに水野・富樫・神楽坂の主要キャストよりも強い印象が残る。相当うまい役者。▲もうひとり、女が出てくる。自刃する女・町田マリー。赤い服の亡霊、これは黒沢清「叫」や「花子さん」である。▲殺人のおきるアパートの一室、ここに湿気ぽさが足りない。▲R18の映画にハレるキングレコード、いけいけドンドン。▲どことなく山本迪夫の映画ぽいな…と想ったり。


破綻して、職業も名誉も家庭も失った時、はじめて人間とは何かということが見えるのです。あなたは高校の教師だそうですが、好きになった女性と出来てしまえば、それでよいのです。そうすると、はじめて人間の生とは何かということが見え、この世の本当の姿が見えるのです。 (車谷長吉 2009年06/13朝日新聞

過去記事「神泉☆円山町」(2009-02-25)