わたしの読みたい黄昏流星群

車谷長吉の「三笠山」は一家心中を前にした家族が京都競馬場にいき、生まれてはじめて馬券を買ってみるが、案の定ハズれて、予定通り死に追いやられる。同じく車谷「忌中」は長年連れ添った老妻を押入れに隠し込んだあと、はがき将棋(はがきで一手一手送り合う)の相手のもとを直接訪ねて勝負のケリをつけた後、マッサージ嬢と情交を結び、死ぬ。…これらを「文学界」掲載時に読んだ際は一級の文学と想った。いま、それらは「黄昏流星群」に想えている。ありえない偶然に賭けるしかないくらいにすり減った生活では、博打で儲けたり、偶然に知り合った若い女と性交をするなどを希望とするしかないのである。低コストで得られる仕合せに。

「あなたの風邪はどこから?」と聞かれることはあっても、「あなたの読みたい黄昏流星群は?」と聞かれることは稀であるのだが、以下、わたしがtwitterに時折に記した、わたしの読みたい「黄昏流星群」である。

同棲中、女の書棚の「ガラスの仮面」を読み耽る男、12巻が抜けていて「ちょっと買いにいってくるわ」と出たっきり。それから数十年後、「ガラスの仮面」4 4巻の発売日に、北陸のある町で、ふたりは再会する。 …そんな黄昏流星群が読みたい。  (2013_02_03

青学の軽音部で一緒だったふたり、女は丸紅に就職、男はバンドを続ける。やがて女は職場結婚、男は32になって夢をあきらめる。そんなふたりが再会したのは50を過ぎ。すき家強盗に入った男とバイト中の女。女は現金と大盛りに温玉をつけて、持たせるのであった。そんな黄昏流星群が読みたい。 (2012_04_05

その二人、昭和57年、立教の平凡なカップルであった。しかしふたりは些細なことでわかれ、男は吹っ切れるために「ザ・ガマン」に出演し、準優勝する。女はオールナイトフジでちょっとした人気者に。そんなふたりがおよそ三十年ぶりに大塚の熟女デリヘルで再会する。そんな「黄昏流星群」が読みたい。 (2012_02_10)

幼なじみのふたりはやがて男女の仲に。しかし女は東京の大学へ、男は地元に残る。それから25年…。勤務先の信用金庫のカネを横領し逃亡中の女が、安ホテルのテレビを付けると、そこには大家族ものドキュメントの家長となったあの男が! そんな「黄昏流星群」が読みたい。 (2012_02_10)

江古田の喫茶店で、「竹内まりあ」か「竹内まりや」かでケンカになり刃傷沙汰となった女と男の再開。そんな「黄昏流星群」が読みたい。 (2012_02_09)

なお「黄昏流星群」の連載開始の1月前に「ザ・ノンフィクション」の放映が始まっている。


忌中

忌中