神泉☆円山
横浜の寿町や台東区の玉姫と同じく、皮肉を含んで聞こえる地名の神泉。それに隣接するのが円山町。
ラブホテル街で知られる円山町は階段の街でもある。あちこちに組まれたそれをあがったり降りたりしながらふらついていると、神泉の駅前に出た。するとアパートの階段、想わず写真に収める。後になって、これが殺人現場のアパートの階段と知る。
いつも女が男に声をかけていた場所、たびたび女が買い物をした青果店も写真に収めていた。霊が呼んだ、と言いたのではなく、ひとを寄せる場所があるのだと想う。適当にふらついていると、自然と辿り着くような場所、目がいく場所、フレームに入れ込む場所が。
「日の暮れきるのも待ちかねて交わる男女がいた。」 (古井由吉「野川」)
「目を閉じると陽炎の坂道を狂女がやってくる。」 (久世光彦「昭和幻燈館」)
「我に帰る必要などない。私はどこまでも降りていくのだ。」 (中村文則「世界の果て」)
「私は虚無とさえ、連帯感を持っていなかった。」 (三島由紀夫「金閣寺」)
「私にも、 陋巷の聖母があった。」 (太宰治「俗天使」)
「私は一人の道連れをつくってしまった。」 (色川武大「あちゃらかぱい」)
「抱きあったまま死のうか」「嘘ばっかり」 (野坂昭如「娼婦焼身」)
「私は闇の中に立っていた。」 (車谷長吉「赤目四十八瀧心中未遂」)