八王子・川越

高村薫の小説「照柿」は 偶然 出くわしたがために人生を狂わせていく三人の男女のお話である。その宿命はJR拝島駅から始まる。失業したおり、暇に任せて一思いに再読した その明くる日、無性に拝島駅が見たくなり、電車に乗ってわざわざ行ったのだが、もちろん何でもないただの駅であった。こんなただの駅で ただ居合わせたがために、狂う。それがニンゲンである。

私の知るかぎりでは、人生は偶然の十字路であるゆえにすばらしい。 エリック・ホッファー「波止場日記」)

と 来て、青梅駅の写真を貼り付けようとPCを漁ったのだけれども、なかった。仕方がないので、赤線跡を二箇所。


● 2003.12 川越(埼玉県)

つけ麺の名店と名高い「頑者」に行ったついでに遊廓跡をめぐる。

名刹喜多院のそばにある廓町に二十軒、花魁イモのような顔の花魁が八十一名。風物はよきだが、女はダメ。(渡辺寛「全国女性街ガイド」1955*1

木村聡「赤線跡を歩く」に引用されてある。現在は住宅地となっており、あちこちに大根が干してあるのが目を引いた。

● 2004.05 八王子(東京都) 

ここは現在アパートなどに転用されており、とにかく巨大。そして屋根がなぜか赤い、あるいは青い。こうした建物が浅川沿いの土地に蝟集する 異形の空間である。木村聡「赤線跡を歩く」によれば、もともとは150m四方の遊廓であったという。

博物館にして保存したいとも思うが、こういう建物は、やはり野に置けで、ひっそりと静かに消え去るままにしておいたほうがいいのだろう。 川本三郎「東京の空の下、今日も町歩き」八王子の章より)

*1: こちらによると「遊廓跡を散策している人たちが、喉から手が出るくらい欲している本の一つ」なのだが、赤線廃止法の3年前に出版されたのが祟ったのか、それにより読み捨てられたかで入手が難しいとのこと