ナンシー関「男らしいぞ埼京線」 その他 地下鉄出口および干物


東京エスカレーターさん本館の「わかりにくい趣味ネットワーク 最新ピックアップ」コーナー*1にて、当ブログの高架写真がチョイスされておったぞよ。名誉名誉。にしても「わかりにくい趣味」とはステキですね(byEXテレビ月曜日の村田昭治教授)。この手のは赤瀬川原平らの「路上観察学会」がルーツかも知れんが、私の場合はナンシー関の「男らしいぞ埼京線」(「何様のつもり」収録)によって開眼。これは「男らしい」が誉め言葉でなくなった時代に「男らしい」の用途が変わったことを指摘したうえで次のように書いている。(今でこそJR埼京線は大宮−大崎間を走っているが、これが書かれた89年当時は大宮−新宿間で運行されていたことに注意して、以下を読まれたい)

「男以外のもの」を形容するという新たな使命を持った「男らしい」だが、先日この形容詞が最もピタリとくるものをみつけた。
それは「埼京線」である。
埼京線は埼玉と新宿を結ぶ超快速電車である。私は池袋−新宿間しか乗った事がないのだが、これが凄い。
速い、などというものではない。新幹線よりも速い。嘘だけど。
池袋−新宿間の、目白・高田馬場新大久保駅に停まりゃあしないのである。停まってもらえないホームで山手線を待っている大勢の人が「おい、あれ埼京線だぜ」と、隣同士つつき合っている。しかし埼京線はスピードを落とす事もなく「眼中ねえよ」と言わんばかりに、やり過ごす。新宿駅にしか停まらない。たとえ手前に高田馬場があろうが、その先に渋谷があろうが、新宿駅にしか停まらないのである。なんとあからさまに男らしい事か。

私も高田馬場駅ではじめて埼京線の通過を見た時は、何ごとかと想うた。大関に昇進した直後の北天佑を想い出したくらいだ。嘘だけど。

「日毎に敵と懶惰に戦う」さんが「ドボク・サミットに行ってきた」(2008-06-15)にて、水門やダムなど土木建築物へのまなざしを「見られることを意識していない対象を芸能として享受する姿勢」と書かれているのだけれども、私はナンシー関の件のコラムにそれを教えられた。ありがとうナンシー関。あなたが大好きだった坂本一生は今、大旗一生って名前になってるよ。


で「わかりにくい趣味」、デジカメやブログのお陰で隆盛を極めている。まだ手つかずのものはないものか。しかし遠出はしたくない。紫外線も浴びたくない。貴族とグループディスカッションするのも嫌だ。というひとに勧めたいのが地下鉄出口写真である。これはまだ人類に居ないんじゃないのか。ちなみに↑は地下鉄東西線東陽町駅からの出口写真である。(解放派のヘルメットみたいなブルーが目に飛び込んでくるのがステキだよね…てな具合に鑑賞するのか?) 中野正貴「東京窓景」の地下鉄出口版って感じかも知れんが、これはなにしろ地下鉄に乗っては降り乗っては降りをひたすら繰り返せばいいのである。写真にしてもアングルを探る必要もない。要は根気がありさえすればイケる。


東京窓景

東京窓景

そうそう。図書館で写真集「干物のある風景」(撮影:新野大)をぺらぺらめくっていると、わさおくんのお母さんが出ておった。2006年撮影とあるのでわさおくんがやってくる前である。にしても干物写真も「わかりにくい趣味」であることには違いない。

[追記] "男らしいぞ埼京線"で検索したら「裏庭日記 public」さんのエントリ「埼京線チーズケーキ」(2008-01-27)がっ。「ナンシー関のコラムを思い出しました。「男らしいぞ埼京線」というコラム。何かあんな感じ。潔くてがっしりまっすぐとしたケーキ」。みんないろんなことでナンシー関のこと、埼京線のことを想い出すんですね。日本はいい国です。

*1: 現在は「東京エスカレーターのおすすめピックアップ」コーナーの名称。