真鍋呉夫「句集 雪女」


遅い時間のスーパーで、ひとつやふたつでない商品を両手でどうにか持っている女、に惹かれる。カゴを持てばいいのにだらしのない女だなと想いながらも、衝動的に店内をうろつき、きんぴらごぼうや納豆のパック、ブルガリアヨーグルトなどを次々とわしづかみしてしまった無計画さ、それにトキメキを憶えずして、なににトキメこうか。

本格的なのは困り者であるが、少しくらい狂っている方がエロいではないか、… などということはどうでもよくて、真鍋呉夫の「句集 雪女」である。これを知ったのは93年頃、毎日新聞の書評欄によってで、川本三郎のそれであったと記憶する。*1 真鍋呉夫の句は、夜の病院のひんやりとぬめるリノリウムの床のような、エロと死の匂いをたたえている。


… などということはどうでもよくて、以下、「句集 雪女」より"雪女"を季語とする句を抜粋。

口紅のあるかなきかに雪女
雪女溶けて光の密となり
うつぶせの寝顔をさなし雪女
雪女ちよつと眇(すがめ)であつたといふ
雪女見しより瘧(おこり)をさまらず

その他「雪女」より、お気に入りを。

花冷えのちがふ乳房に逢ひにゆく
夜干して男を刺しにゆく女
花の下靴だけはいて死んでゐる
死んだ子のはしゃぐ聲して風の盆

その他、真鍋呉夫の句より。

ながい廊下きちがひ病院のうしみつどき
はなぞののランプは蝶が死ににくる


句集 雪女

句集 雪女

*1: 93〜95年頃の毎日の書評委員はふるっていて、川本の他に沼野充義向井敏が名を連ねていた。当時の朝日や読売の書評欄は、堅苦しく、日曜の朝からこんなもの読むかと揶揄されていて、そんな当時にあって、毎日は異色であった。