東直子「愛を想う」 / 田村隆一「花の町」 ほか
泣きながらあなたを洗うゆめをみた触角のない蝶に追われて
笑顔が苦手そうな笑顔が好きでした 冬の陽射しにしゃがんだことも
水が水の重さかかえて落ちてくる冗談だけが人生でした
東直子「愛を想う」より
スクランブル交差点のデジタルビルボードから
とつぜん山口百恵の「コスモス」が流れる
群衆の中でたったひとり立ち止まり
聞き耳を立てながら空を見上げている初老のホームレス
藤原新也「渋谷」より
そのとき 後ろから 小走りにやってきて
わたしの肩をたたく者がいる。
乳母車のなかをさっとのぞきこんだあと
ぞっとするほどに 甲高い声で言う。
「死んでますよ」
小池昌代「地上を渡る声」より
口ごもってしまった愛のことば
言い出せなかった詫び言
黙っているしかなかった悔い
無口な空は聞こえない死者のことばに満ちている
谷川俊太郎「写真ノ中ノ空」より
あの四谷怪談はね、女の一生を具現化したものなんだね。髪が抜け、目がはれあがってきて、死んだあげくが……っていう。
すごいんだよ、女の変化は。女の一生はドラマティックだね。
田村隆一「花の町」より
過日、覚醒剤で逮捕された小向美奈子のこの写真を見て、甲斐庄楠音のこの画*1の女が想い浮ぶ。内側にひそませているなにかを隠しきれなくなった表情である。すごいんだな、女の変化は。女の一生はドラマティックである。
ブッシュからオバマになった、てのは、不破から志位になったのと、どれくらい違うんだい? と架空の老人が呟いた。
エレファントカシマシは各人中学時代に結成されたバンドであるのだが、当初、オルガン女子がいた。その子のその後が気になる。40を過ぎた今日、「普通の日々」を口ずさんだりするのだろうか。
東直子の短歌は、上記のものに限らず、トイカメラの色調のようであるように想う。
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*1: 「島原の女」大正9年作