エレカシ「歴史前夜」 / 久世光彦「マイラストソング」 / 藤竜也「夢は夜ひらく」
関内関外日記 「音楽雑感―僕の死にたい曲―」 (2009-02-10)
人生のエンディングテーマが流れるとしたら、何がいいと思う? 葬式のときの葬送曲なんかじゃないよ、君の人生のエンディングで、どんな曲が流れていればいいと思う? 俺は中学生のころから、シド・ヴィシャスの「マイ・ウェイ」がいいと思っていた。投げやりでくそったれで、どんなみじめな自分の死にも似合うと思っていたから。いや、今でも思っている。 (引用元に動画リンク有り)
私はエレカシの「歴史前夜」か、RCサクセションの「サン・トワ・マミー」がいい。そんなことを願いながらも、浜田麻里の「Return to my self 〜 しない、しない、ナツ。」が手違いで流れかねない、来し方行く末だけれど。「よりによってなんだよこれ」って苦笑いしながら死ぬわけだ。
久世光彦「マイラストソング」
久世光彦の著書はほぼ読んでいて、きっかけは「諸君!」に見開きで連載されていた「マイラストソング」(92.04-06.04)であった。(久世の死でもってこの連載は終わるのだが、最後の回は「我が良き友よ」、吉田拓郎がかまやつひろしのために作った唄である。) 単行本で5冊、時おり読み返すのだけれども、気にとまっている箇所を抜き書きする。ちなみにいちばん好きな回はすでに取り上げていて、「『昭和枯れすすき』と久世光彦」(2008-10-20)。
(映画「ディア・ハンター」) 青年たちが屯(たむろ)しているバーで球を撞いているときにかかっているフォー・シーズンズの「君の瞳に恋してる」もよかった。あの曲は「ディア・ハンター」で使われて、もう一つよくなり、多くの人たちの中に長く棲むようになった歌のいい例だと思う。あの歌を口ずさみながらキューを構えるクリストファー・ウォーケンのきれいな笑い顔を、私はいつまでも忘れないだろう。*1
(「唐獅子牡丹」) この歌を作った水城一狼という人は、名の通り怖い顔をした東映の斬られ役だった。(略)自分でもドスの利いた声で歌う人で、「唐獅子牡丹」が売れたご褒美に「任侠観音菩薩」という妙な歌を吹き込んだが、まるで売れなかった。つまり、一曲かぎりの作家だった。しかし、名誉ある作家だと、私は思う。あなたがたった一つ書いた歌を、いったいどれくらいの人たちが忘れられないでいるだろう。いまでも恋しているだろう。あなたがいなくても、七〇年安保はあっただろうが、もしあなたが書いた歌がなかったら、あの奇妙な安保前夜はなかっただろう。*2
(遊廓について) 私にしたところで、覗いたのは戦後の新宿花園界隈ぐらいのものである。桃色のタイルの壁とか、剥げかけたクレゾール石鹸液の入った琺瑯の洗面器とか、窓に嵌められたステンドグラス擬いの色硝子とか---あの頽廃は、一つの文化だった。たとえようもなく懐かしく、胸締めつけられるように切ない文化だった。*3 (この頽廃シズルが久世の諸作のモチーフだろう)
この連載は、いまわに一曲リクエストするならば…という主旨であったのだが、次第にそんなことはお構いなしの、唄の想い出・雑記になっていったのだけれども、亡くなる半年前ぐらいの下記の回で「マイラストソング」を久世は珍しく意識している。
(大川栄策「さざんかの宿」) 私はこの歌を聴くと、お神籤で<凶>の札を引いたような気分になる。(略)よくあると言えば、よくある人妻への慕情の歌である。寧ろ純愛と言っていい、切ない恋の歌かもしれない。詞を読んだ限り、どんな頽廃の匂いもしないようだ。ところが私には、これが心中前夜の溜息のように聞こえる。(略)<吉>を夢見るのも人情なら<凶>と抱き合って、奈落の底へ堕ちたいのも人情である。光があれば、闇もある。大川栄策は闇からの死者なのだ。
(大川が唄った作者不詳の獄中ソング「哀しき子守唄」(学校帰りの 友達に / 親のない者 馬鹿にされ / いいえおります 天国に / 小石並べて ねています / ねています)、これらを紹介し、久世はこう締める) 曇りガラスを拭いても拭いても、明日が見えないのが人生である。私の<ラスト・ソング>は、意外に大川栄策が懲りもせずに歌う<孤独>の中に、隠れているのかもしれない。辺りが暗ければ暗いほど、地獄の唄は鮮やかに美しく、類い稀な香に匂う。*4
なお、「時の過ぎゆくままに」の回*5によると、若山富三郎は亡くなる二日前に勝新太郎と京都のクラブにいき、何曲か唄う。最後に唄ったのが「悪魔のようなあいつ」の主題歌である「時の過ぎゆくままに」であったという。
藤竜也「夢は夜ひらく」
「マイラストソング」には「夢は夜ひらく」も取り上げられている。有名なのは藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」(作詞:石坂まさを)だが、三上寛版など20以上もある。久世光彦も小谷夏の名で作詞しており、唄うのは藤竜也。1974年04月に発売された「花一輪」のB面である。なお「花一輪」(YouTubeにリンク)はひたすら一人語り。これを元に映画「任侠花一輪」(同年10月)が作られる。
何に追われて 生き急ぎ / 心安まる 暇もなく / 三十三は恥の数 / 夢は夜ひらくく
いじめつくして 五年半 / 涙も涸れて 三年半 / 片手拝みの 妻の背に / 夢は夜ひらく
とどかないから なつかしく / 亡びていくから うつくしい / 柳行李の 恋文に / 夢は夜ひらく
雪か花火か 人生は / 三行り半の 雨だれか / また生きのびて 除夜の鐘 / 夢は夜ひら *6
いいなあ、これ。これで死のう。聴いたことないけど。