早く葉桜になればいい。


○2010.04 井の頭公園(東京都三鷹市
花見の輪の脇をすたすたとゆき、公園を抜ける。ほらほら、ここ。文人の遺体の見つかった場所の前で、女はふり返る。はあ、ここなんだ。なんでもない場所、どうということのない場所の前で。撮ってあげよっかと右手を差し出すと、鞄からNikonのなんとかを取り出す。よく判らないが、たぶんこうだろう、と、がちがちいじってシャッターを切る。さんきゅー、へいへい。現像のあがりはどうだったろうか。ちゃんと映っていただろうか。その写真は今もその子の手元にあるのか。まあ、なんでもいいや。あの時、あなたと話した「葉桜と魔笛」、読んだのはあれから随分と経ってからのことで、あの時は話を合わせるのに読んでいるふりをしただけでした。…華やいだ名前の馬が桜花賞を勝った、ある春のこと。