田中美栄子と存在しない二十世紀の記憶
初夏 暮れ方 校舎の隅 暗室 現像液の匂い 浮き上がる田中さん きんこんかんこん 「もうすぐ下校時刻です」 定着した田中さん 存在しない二十世紀の記憶
下校 自転車 レイダック にわか雨 前をゆく田中さん ずぶぬれ 肌にはりつくブラウス 浮き上がるブラジャー いつまでも追い抜かない 存在する二十世紀の記憶
四月の終わり 土曜日 蜜柑の皮 マザーアクトレス 外堀沿い 立て看板 ジャズトランペット あいうえおあお 学生会館 反帝反スタ カクマルセンメツ サークルの部室 麻雀 映りのわるいテレビ 麻雀 競馬中継 吉沢さんの訛り トップガンの追い切り映像 麻雀 日刊ゲンダイ それいけ大将 明日の馬柱 麻雀 缶ビール メジロランバダ流しの紙切れ 麻雀 缶ビール 日が暮れる 私の中の、美しい競馬。
冴えない時間を一緒に過ごしたやつが友だちだと思う。俺にとって大井競馬場というのはいちばん冴えないころ、いちばんよく過ごした場所だった。(goldhead 2010-06-30)
時間を喰い潰しながら、奇跡に賭けていた。要は紙くずを買っていた。カイタノとアルゼンチンとが秋の季語、そんな冴えない私たちであった。