小田原の海は鎌倉のそれと違い、リア充の匂いなどしない海だった。


○2010_11 神奈川県小田原市


銭金の勘定をするうちに朝を迎える。足元の紙袋につっこんでいたボルヘス「創造者」を握り、会社を出る。近くの牛丼屋で飯をすすり、新宿駅、そして小田原へ。競輪場、漁港、抹香町。私のためのような町ではないか。もちろん100円マックもあるだろうし、缶コーヒーもあるだろう。これ以上のなにを望むのか。

抹香町の跡。そういう場所を探しなれた者ならば、「そろそろだな」という気配を知っている。ここには「そこそろ」の気配だけが残り、昔日の色ガラスのひかりは残されておらず。写真を撮ろうにも撮るものもなくて、仕方なしに小田原競輪場へ。競輪選手で知っているのは、中野・神山・十文字・後閑くらいなもんだが、そんな選手は出てこないようだ。誰を買えばいいのかさっぱりわからないので、名字で選ぶしかないのだが、万城目さんとか杉本先輩とか、そんな名字の選手もいないので困ったもんだ。

無駄足を重ねて、海。小田原の海は鎌倉のそれと違い、リア充の匂いなどしない海だった。缶コーヒーを呑み、書籍を広げるにはちょうどいい、そんな場所であった。