「昭和枯れすすき」と久世光彦

「時間ですよ・昭和元年」では、そのコンビも新しく細川俊之と安田(大楠)道代になった。吉原の足抜け女郎と、兇状持ちのやくざ者の設定である。---二人は、やがて心中するに違いない。  久世光彦「昭和枯れすすき」(「マイラストソング4 ダニーボーイ」収録)より

ドラマ「時間ですよ」シリーズのマンネリ化に、半世紀昔を舞台とすることを向田邦子は思いつく。それで出来たのが第4シリーズ「時間ですよ・昭和元年」(74.10.16〜75.04.09)。サイドストーリーの藤竜也篠ひろ子コンビに始まる「許されない愛になく悲恋の男女」を、ここでは細川俊之と安田道代が演じる。破滅に向かうことが約束された二人のシーンになると、挿入歌として さくらと一郎の「昭和枯れすすき」が切々と流れる。♪貧しさに負けた いえ 世間に負けた… のあの唄である。

私がこのレコードを見つけたとき、そのジャケットのデザインが気になった。切り紙細工の哀れな男女が描かれているのだが、そのタッチと字体に見憶えがあった。女の方が男にすがりつき、寄り添った男は乱れた前髪を幾筋か、額にパラリと垂らしているのだが、その前髪の垂れ具合が、六、七年前の<<とめてくれるな おっ母さん 背中のいちょうがないている>>という、東大駒場祭の有名な男のそれと、そっくりなのだ。私は「時間ですよ」シリーズの初期のころ、そのポスターを手に入れて、堺正章のケンちゃんの部屋に貼っていた。赤と黒の配色にセンスがあって、いいポスターだった。*1

その「昭和枯れすすき」のジャケットの作者こそ、橋本治(もちろん件の駒場祭ポスターも)である。久世は「時間ですよ・昭和元年」の切り絵のタイトルバックを橋本治に依頼することになる。*2
● 「昭和枯れすすき」(1974)/ 東大駒場祭ポスター(1968)*3
http://www.uraxima.com/parts/08-03/showa-karesusuki.jpghttp://image.blog.livedoor.jp/peacewordsproject/6429d705.gif

この曲はドラマの3月前、07月21日に発売されている。もし、ジャケットが橋本治によるものでなかったならば、久世の目にはとまらなかったかもしれない。しかし、ドラマで毎週流れようとも視聴者の反応はなかったという。それが年を明けた昭和50年02月になって突然売れ始め、やがて100万枚を越すヒットとなる。

「昭和枯れすすき」は、彼らにとって最後のチャンスだったらしい。つまり、これが売れなかったら、廃業というところまで追いつめられていたのだ。二人は必死だった。唐草模様の風呂敷に包んだシングル盤を背負って、各駅停車の電車に乗り、電車が停まるたびに降り、駅前の商店街で、声を張り上げて木枯らしと競って絶望の歌を歌った。売れて一枚か二枚だった。だから、三食コッペパン一個と、水だけだった。

まさに昭和枯れすすきである。
私はこの曲を聴きもしないし唄いもしない。このドラマも見たことがない。それでも、久世を中心に織りなすエピソードには読み返すたびにやられてしまう。ちなみに細川俊之と安田道代の最期は「めでたく祝言という夜、二人は白無垢と羽織袴で心中する」。

ダニー・ボーイ

ダニー・ボーイ

*1: 実際のを見ればわかるが、字体や前髪が云々は久世の記憶の美化である。

*2: ちなみに橋本が作家になるのは77年のこと。

*3: Copyright (c) hashimoto, osamu. All rights reserved.写真撮影 町田仁志